この20年間に顕在化した悪質クレーム問題、現場の声と研究活動
「対人サービスの職場でカスハラ(当時悪質クレーム)問題が起こり始めたのは、この20年間と考えている。」と桐生正幸教授(東洋大学・犯罪心理学者)は言います。
業種を超えた企業や事業団体の消費者関連部門の消費者対応責任者・担当者が集まる消費者関連専門家会議(ACAP)による調査において、近年の消費者の苦情内容や行動の変容が指摘されています。(幸山、2009)
1999年の苦情:「接客態度やサービスなどに関するもの」が中心
2007年の苦情:「自己中心的な申し出」、「過剰、不当な要求」「企業姿勢や社会的責任を問うもの」などへ変化
また、フリーダイヤルやインターネット上での苦情受付が開始され、企業への敷居が低くなったことや、男性を中心とした定年退職者から苦情が増加したことも要因として挙げられています。
桐生教授は、日本の対人サービス現場におけるカスハラの初期モデル(「苦情行動出現プロセスと介入モデル」桐生、2014)を示し、基本的なカスハラ行動を整理しました。さらに2017年、2020年に実施されたUAゼンセンにおけるカスハラ実態調査の最新分析に基づき、参議院議員会館においての提案等、カスハラ防止の法制化に向けた提言を行っています。
こうして、現場の方々や研究者たちが「お客さまはお互いさま」の消費社会へ向け、着実に歩んできました。
【関連記事・書籍】
UAゼンセン:カスハラ実態調査報告集会(2020.12.3)
動き始めた行政、厚労省がマニュアル化へ
このような悪質クレームに苦しむ現場・業界団体の声を受け、令和2年、事業主に職場でのパワーハラスメント防止措置を義務づけた厚労省告示第5号に、カスタマーハラスメントに関する指針が盛り込まれました。
「事業主が 他の事業主の雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為に関し行うことが望ましい取組の内容」として、以下3点が示されました。
①相談に応じ、適切に対応するために必要な体制整備
②被害者への配慮のための取組(メンタルヘルス相談等)
③被害防止のための取組(マニュアル作成、研修実施等)
この内容を踏まえ、厚労省が企業向けマニュアルの作成を開始しました。
【関連サイト】
マニュアルの内容と活用方法
2022年2月25日、厚労省が「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を公表しました。パワハラ・セクハラと同じハラスメントの1つであるという大きな枠組みで捉えつつ、被害者と加害者の社会的属性を考慮した内容となっています。
ただし、注意が必要なのは、このマニュアルはあくまでも「カスタマーハラスメント対策の基本的な枠組み」を示すものであり、そのまま業務マニュアルのように使用することはできないということです。
企業や業界によって顧客への対応方法・基準が異なるように、カスタマーハラスメントの形もさまざまです。つまり、何段階かのブレイクダウンが必要になります。
① 業界に最適化する
② 企業に最適化(自社の業務ルールや企業文化に合わせる)
③ 各部門に最適化(応対する対象の違い、電話、対面など態様の違い…)
業態によってさらに細分化する必要はありますが、このプロセスの中で、現場の実情に合わせブレイクダウンしていき、初めてマニュアルが現場で働く従業員に役立つものとなります。
では、どのようにブレイクダウンすれば良いのか。
すでに、自社に悪質クレームに関するマニュアルがあり、かつカスハラ発生時の対応策や社内報告プロセスが明確に決められている場合には、厚労省マニュアルを参考に、自社マニュアルを補足したり、抜け落ちていた観点を追加取り組みすることで、本格的なカスタマーハラスメント対策取組へのスタートを切ることができます。
しかし、そもそも「一般的なクレーム」に関するマニュアル、もしくは「顧客対応マニュアル」しかないといった場合は、一定の手間と労力をかけてブレイクダウンすることが必要となりそうです。
【参考リンク】
【協会コンテンツ紹介】
60分で要点がわかる!知っておきたい
厚生労働省「カスタマーハラスメント企業対策マニュアル」
皆さんの組織では、現場の管理者や人事部、業務管理部門の担当者それぞれが、多忙な毎日の中で全56ページの厚労省マニュアルを読み解いていませんか?
- 概要をまとめて紹介するには、カスハラに関する知識が足りないし手間がかかりすぎる。
- 人事部がハラスメント対策として扱うには、対人サービス現場から離れていて難しいと感じる。
- 現場は日常業務で忙殺されており時間の余裕がない。
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