中小企業もパワハラ防止法の対象に


2020年6月に施行されたパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)により、企業にパワハラ防止措置が義務付けられました。2022年4月からは、その法令の対象が拡大され、大企業と同様のハラスメント対策が中小企業にも義務化されています。

この法令は、組織内のハラスメントはもちろんのこと、他の事業者が雇用する労働者に対しても、適切な対応を取ることが望ましいとされています。

(セクハラは、より強い内容が均等法第11条第3項に明記あり)

逃げられないカスハラ

逃げられない!残酷なカスハラ


カスタマーハラスメントには、明確な定義はなく、厚労省のマニュアルでは以下のように表現されています。

「(カスタマーハラスメントとは)顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、 当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの

この文章を読んで、一般消費者が感覚的に理解することは難しいかもしれません。

そのため、「スーパーのレジ等で暴言を吐く」「コンビニでクレームをつけ土下座をさせる」など、メディアで流されているような事例だけが、カスタマーハラスメントだと考えている人は少なくありません。


しかし、それはカスタマーハラスメントの一例にすぎません。

これまでのカスハラ実態調査の結果(※)をみると、カスハラが発生する環境を幾つかのタイプに分類することができます。その中でも、極めて残酷なのは「逃げられない環境における慢性化したカスハラ」です。このタイプとして以下のような例が挙げられます。

  • 同じ常連客に来店の度に人格を否定するような暴言を吐かれる(いじめ)
  • 主要取引先の営業部長に嫌われ、数年にわたって叱責を受ける(パワハラ)
  • 営業を担当する顧客に気に入られ、長時間電話で拘束されたり、すぐ真後ろに立たれたりして恐怖を感じる(セクハラ)

いずれも共通点は、「顧客=(いじめやパワハラ・セクハラの)加害者で、その状態が長期間継続しているが、従業員はその環境から逃げることができない」という点にあります。

一般的にこれらの行為が同じ組織内で発生した場合、通報窓口が設置されていますが、加害者が顧客や取引先社員である場合、被害者は「解決手段がない」と感じるケースが少なくありません。そして、このタイプのカスタマーハラスメントは、対人サービス業以外にも、建設、教育、医療、介護など様々な業界で発生しています。

被害者が抱える心身の危険について、予防精神医学が専門の島田恭子博士(当協会代表)は次のように指摘しています。

(被害者に)裁量権がない=自分にコントロールできないにもかかわらず、誰も助けてくれる人がおらず、自分一人で「うまく対応」しなれければならないと考えてしまう(もしくはそれを所属組織から求められる)。さらに、対応がうまくできない場合でも、環境を変えるハードルが極めて高く、自分が我慢することしか選択肢がないといったケースは、かなり大きなストレスを長期間受け続けることになり、結果的に心身に悪影響を及ぼす可能性があります。」



(※)2017/2022 UAゼンセン カスハラ実態調査より


リスクマネジメント

本気のハラスメント対策がブランドイメージを守る


このように、接客とは程遠いビジネスの現場でもカスタマーハラスメントは日々起こっています。

自社従業員が取引先の労働者に対してパワハラを行っていた場合、パワハラ防止法上「適切対応が望まれる」事案であると同時に、「一般的なカスタマーハラスメント」と捉えることができ、被害者個人・被害者の雇用者等から何らかの措置がなされる可能性もあります。

加えて、現代はSNSやインターネットだけでなく、就活エージェントなど第三者を通しても情報は拡散しやすく、「自社内のカスハラ社員」の存在は、企業のブランド棄損につながり得ると考えられます。

厚労省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」において、「顧客等」は「顧客や取引先など」を指している(取引先などを当事者の枠組みに入れている)ことや、今後カスタマーハラスメント対策の法制化が見込まれることから、社会の厳しい視線は「カスハラ加害者」に対しても注がれることになるでしょう。


企業における「カスハラ加害者」は「顧客」だけでなく「自社の高リスク社員」も含まれると認識し、リスクマネジメントを進化させる「本気度」が求められています。